これまで、送風機や空調機に使われる一般産業用ベルトと言えば、「Vベルト」と呼ばれるベルトが主流でした。
しかし、バンドーではその常識を覆し、それ以前の時代から使われていた「平ベルト」に、次なる活路を見出そうとします。
5年もの開発期間を乗り越えて誕生したHFD system®(Hyper Flat Drive System)は、たいへん優れた省エネルギー性を発揮し、2013年度「省エネ大賞」(製品・ビジネスモデル部門)において「資源エネルギー長官賞」を受賞。そして2018年度には二度目となる「省エネ大賞 省エネルギーセンター会長賞」を受賞致しました。また2014年度には「兵庫県発明協会会長賞」も受賞しています。
バンドーの技術者たちは、なぜ、平ベルトにこだわったのか?
HFD systemは、どのようなところが画期的なのか?省エネ効果だけに留まらない、その実力とは?
技術者へのインタビューをもとに、HFD systemの誕生秘話とこれからの可能性に迫ります。
Vベルトから「平ベルト」への原点回帰
今回インタビューを行ったのは、こちらの2人です。
まずは、HFD systemが生まれてきた背景について、聞かせてもらえますか。
宮田:伝動ベルトには100年にわたる歴史がありますが、その歴史の第一歩は「平ベルト」から始まりました。そこからベルトはさまざまに広がってVベルトなどが登場してきました。
もともと最初からあったのが、平ベルトだったのですね。
宮田:平ベルトは「伝動効率が非常に高い」ということが分かっていたのですが、平ベルト特有の問題もありました。ひとつは蛇行です。もうひとつは、張力が低下するとスリップしてしまうこと。こうした問題からVベルトに置き換わってきたのです。
時代は移り変わり、ものづくりも省エネに向かうことになります。バンドーでは、その流れに先駆けて、伝達効率の高いVベルト「省エネレッド」を開発し、1990年代にはすでに販売を行っていました。
しかし当初は、市場に見向きもされない存在でした。それが1990年代後半になると世の中の環境意識が高まり、多くの方に関心を持っていただけるようになったのです。さらなる製品改良を目指すには平ベルトしかない。そんな想いがありました。
平ベルトで「究極の伝動」を目指す
なぜ、平ベルトなのでしょうか?
宮田:効率を考えると、やはり「究極の伝動」は平ベルトなのです。蛇行やスリップの問題をクリアして、平ベルトを使いこなす。そうすれば必ず、最高の伝動が可能になる。そんな考えのもとで、平vベルトの開発に着手することになりました。
Vベルトだとなぜ、伝動効率の低下が起こるのでしょう?
宮田:ベルトのロスというのは、およそ8割が“曲げ・伸ばし”によるロスなんです。そのロスを究極に下げることができるのは、厚みの薄い平ベルトなのです。
しかし、平ベルトというのは溝がないため蛇行してしまう。そして、厚みが薄い分、プーリのフランジなどで強制的に留めてしまうと寿命が読めなくなります。
当初は、帆布ベルトの横をカバーして、なんとかフランジにあたる部分の強度を上げようとしました。ベルト端部強化にはかなり苦労したのですが、やはり寿命のバラつきが消せない、しかも帆布は曲げると固くなりせっかくの伝動効率を下げてしまう。やはり平ベルトというのは、フランジにあてては駄目ということから「蛇行制御」を考えるという発想につながっていったのです。
新しく、かつ、シンプル。独自の「蛇行制御」へのひらめき
「蛇行制御」とは、どういうものですか?
宮田:平ベルトというものは、ベルトの張力が抜けるとすぐにスリップします。そこでベルトの緩みを押さえつけるテンショナーというものを付けるのですが、そのテンショナーに蛇行制御の機能を持たせれば、平ベルトの弱点を克服できると考えました。
どうにかシンプルに蛇行を制御できないものだろうかと考えてえていたとき、「自動車のハンドルがまっすぐに走ろうとする、カーブを曲がった後に手を離すと勝手に戻る」という仕組み、つまり軸を少しだけ傾けてみると蛇行修正をすることに気がついたのです。
軸力方向をずらすことで、「ベルトがこっちに行きかけたら、こっちへ戻る」というように、3次元な動きをするようになるんです。考えついたときは、すぐに実験室に飛び込みました(笑)。
その後も、信頼性の評価など、さまざまな課題をクリアしながら一歩ずつ開発を進め、5年の歳月をかけてHFD Systemを世に送り出すことができました。
7%という高い省エネ効果を実現
独自の蛇行制御に辿り着いたことで、平ベルトの伝動効率を余すところ発揮できるようになったのですね。
吉見:HFD Systemは、Vベルトの従来品と比べて、平均で7%の省エネを実現しています。お客様先でも実際に測定を行い、効果を見える化してお伝えするようにしています。
宮田:回っていたベルトを止めて、さわっていただくと、Vベルトはエネルギーの多くが摩擦熱に変わっているため熱くなる。ところが、平ベルトは熱くないんです。効率の違いを手でも感じていただくことができます。
今、工場の送風機、ビルや公共施設の空調設備など、さまざまな所に導入が広がってきています。
世の中にあるこうした装置の数とその駆動時間を考えると、発電所1〜2基分にも相当するようなインパクトがあります。
小型モデルが加わり、ラインナップが完成
平ベルトの価値を、より多くの人へ
宮田:HFD Systemの誕生から、およそ10年。平ベルトの価値を実感していただき、「これはいい!」とファンになってくださったお客様もいます。
2018年9月からは、いよいよ小型モデルも販売を開始し、ラインナップが完成します。これまで「30〜75kW」と「2.2〜22kW」の2モデルだったところに、新たに小容量タイプが加わるのです。
吉見:部品が3点ほどのコンパクトなつくりですが、このなかに蛇行制御の機能もすべて集約しています。徹底的にシンプルな構造になっています。
宮田:たとえば、レストランなどでドアのうえに小さなファンがついていると思います。
こうした小型装置などに用途が広がっていくと期待できます。
これで平ベルトは、より広範な領域をカバーできることになります。「究極の伝動」と、そこから生まれるさまざまな価値を、より多くの皆さんへお届けしていけたら、開発に携わった者として、これほど嬉しいことはありません。
Vベルトから平ベルトへの原点回帰をはかり、革新的な省エネ効果を生み出したHFD System。
実は、そのメリットは省エネだけでに留まりません。後編では、HFDが可能にするさまざまな課題解決についてご紹介します。ぜひ、あわせてご一読ください。